レモンユーカリの学名が2つある理由。Eucalyptus? Corymbia?
レモンユーカリには、文献や場面によって使われる学名が2つあります。
Eucalyptus citriodora
Corymbia citriodora
園芸や流通の世界では、今も Eucalyptus の名前をよく見かけます。
一方、現在の植物分類では、レモンユーカリは Corymbia に分類されています。
「え?じゃあどっちが本当なの?」
その疑問に答えるために、名前が分かれた理由をできるだけやさしく説明します。
そもそも「ユーカリ」はひとつの仲間じゃなかった
むかしは、みんなまとめて「ユーカリ」だった
少し前まで、レモンユーカリはたくさんの木と一緒に**ユーカリ属(Eucalyptus)**に入っていました。見た目も似ているし、「同じ仲間でいいよね」という感じです。
でも研究が進むにつれて、「ユーカリ」と呼ばれてきた木々は、実はいくつかのグループに分けられることがわかってきました。
「ユーカリの木」は、大きく3つの仲間
わたしたちが「ユーカリ」とひとくちに呼んでいる木は、植物学ではおもにこの3つの属に分けられています。
- ユーカリ属(Eucalyptus)……いちばん種類が多いグループ
- コリンビア属(Corymbia)……レモンユーカリはここ
- アンゴフォラ属(Angophora)
この3つをまとめて「ユーカリの木(eucalypts)」と呼びます。
レモンユーカリは、このうちコリンビア属の一員です。
決め手になったのは「花の集まり方」
コリンビアという名前の由来
3つの仲間を見分けるいちばん大事な特徴は、花がどんなふうに集まって咲くかでした。
コリンビアの仲間は、花のつく枝が枝分かれして、全体としてこんもりした房のように咲きます。この咲き方を植物学で「散房花序(さんぼうかじょ)」、英語で corymb(コリンブ) と呼びます。
コリンビア(Corymbia)という属名は、この花のつき方そのものから付けられました。
いっぽうユーカリ属の花は、枝分かれせず、一本の柄からまとまって咲きます。
つぼみの「フタ」についてのよくある誤解
ユーカリの仲間のつぼみには、帽子のような**フタ(operculum・オペルクルム)**がかぶっています。咲くときには、中の雄しべに押し上げられてポロリと落ちます。
このフタ、「ユーカリ属とコリンビア属で外れ方が違う」と説明されることがありますが、そうではありません。ユーカリ属もコリンビア属も、フタはきちんと外れて咲きます。
ちがいがあるのはアンゴフォラ属で、こちらはそもそもフタを持っていません。
| つぼみのフタ | 花の集まり方 | |
|---|---|---|
| ユーカリ属(Eucalyptus) | あり(咲くときに外れる) | 枝分かれしない |
| コリンビア属(Corymbia) | あり(咲くときに外れる) | 枝分かれして房状に広がる |
| アンゴフォラ属(Angophora) | なし | 枝分かれして房状に広がる |
樹皮は、実は決め手にならない
「ツルツルした木肌がコリンビア、ゴツゴツがユーカリ属」と思われがちですが、これも正しくありません。
ユーカリ属にもツルツルの木肌の種はたくさんありますし、コリンビア属の中にも、ゴツゴツした樹皮を持つ「ブラッドウッド」と呼ばれる仲間がいます。レモンユーカリのすべすべした木肌は、あくまでこの種の特徴です。
1995年、コリンビア属の誕生
1995年、オーストラリアの研究者ヒル(K.D. Hill)とジョンソン(L.A.S. Johnson)は、こうした特徴のちがいをもとに、113種を Eucalyptus から切り離して新しい属を立てました。
こうして生まれたのが**コリンビア属(Corymbia)**です。
参考文献:Hill, K.D. & Johnson, L.A.S. (1995) Systematic studies in the eucalypts 7. A revision of the bloodwoods, genus Corymbia (Myrtaceae). Telopea 6(2–3): 185–504.
ユーカリじゃなくなったの?
ここはよく誤解されるところです。
レモンユーカリは「ユーカリの木(eucalypts)の仲間ではある」、でも「ユーカリ属(Eucalyptus)ではなく、コリンビア属(Corymbia)」という位置になります。
イメージとしては、「ユーカリの木」という大きなくくりの中に、Eucalyptus・Corymbia・Angophora という3つの仲間が横並びで並んでいる感じです。レモンユーカリはそのうちの Corymbia にいます。
「ユーカリ属の中の、さらに細かいグループ」ではなく、「となりの仲間」というわけですね。
属が変わっても、レモンのいい香り、見た目のうつくしさ、わたしたちが知っているレモンユーカリはそのままです。
もっと正しく仲間分けされた、それだけのことです。
なぜ Corymbia と Eucalyptus が混在しているのか
学名が2つ残っているのには、2つの理由があります。
理由1:研究者の間でも見方が分かれている
1995年にヒルとジョンソンが Corymbia を独立した属として提案したあと、2000年にブルッカー(M.I.H. Brooker)は「独立させず、Eucalyptus の中の下位グループ(亜属)として扱う」という別の分類を発表しました。
その後、遺伝子を使った研究が進み、いまは Corymbia を独立した属とする見方が主流になっています。
どちらかが誤りというより、研究の途中で見方が分かれているというのが正確なところです。
理由2:園芸の現場では昔の名前が生きている
もうひとつは単純に、園芸や流通の世界では長く親しまれてきた Eucalyptus citriodora の名前がそのまま使われ続けているから。
そのため、国際的な分類データベース(Plants of the World Online など)では Corymbia citriodora、園芸店や一般向けの資料では Eucalyptus citriodora と、場面によって表記が分かれています。
苗を買うときに Eucalyptus citriodora と書かれていても、それは古い名前であって、間違いではありません。
citriodora =「レモンの香りをもつ」
学名の citriodora はラテン語で「レモンの香りをもつ」という意味です。
1848年、イギリスの植物学者フッカー(W.J. Hooker)がこの木を新種として記載したときに付けた名前で、探検家ミッチェルのオーストラリア内陸探検記の中で発表されました。
1995年に属が Eucalyptus から Corymbia に移ったあとも、citriodora という種小名はそのまま引き継がれています。この木を「レモンの香りの木」として認識してきた人の感覚は、170年以上変わっていないということですね。
実は「レモンの香りがしないレモンユーカリ」もいる
おもしろいことに、Corymbia citriodora には香りのしない仲間がいます。
亜種 variegata(C. citriodora subsp. variegata)と呼ばれるグループで、見た目はほとんど同じなのに、葉をこすってもレモンの香りがしません。香りのもとであるシトロネラールを持っていないためです。
同じ種なのに、香るタイプと香らないタイプがいる。植物図鑑としては、なんだかそそられる話です。
まとめ
- レモンユーカリの現在の学名は Corymbia citriodora
- 古い学名 Eucalyptus citriodora も、園芸の現場では今も広く使われている
- 分けられた決め手は「花の集まり方(散房花序=corymb)」
- レモンユーカリは「ユーカリの木」の仲間だけれど、「ユーカリ属」ではない
名前は変わっても、レモンのような香りも、魅力そのものも変わりません。
学名の違いを知ることは、レモンユーカリをほんの少し深く知るための入口なのかもしれません。
参考にした資料
- EUCLID: Eucalypts of Australia(オーストラリア国立生物多様性研究センター)Corymbia citriodora
- Australian National Botanic Gardens(オーストラリア国立植物園)
- Hill, K.D. & Johnson, L.A.S. (1995) Telopea 6(2–3): 185–504.
- Plants of the World Online(英国キュー王立植物園)
